2010年05月03日(月)
狂犬病予防注射を考えるパート2 [病気に関するお話]
狂犬病予防注射の話題の続きです。
少し古い資料ですが、世界での狂犬病の発生状況です。以下のアドレスにアクセスしてみてくださいhttp://nichiju.lin.gr.jp/ekigaku/keneki/kyouken.htm
狂犬病の発生国=狂犬病による死亡者がいる国ということになります。
ほとんどの地域で狂犬病による犠牲者が出ているのがお分かりいただけると思います。
狂犬病はほとんどすべての哺乳類が感染します。
犬ではウイルスの感染を受けると潜伏期、前駆期、興奮期、麻痺期に分けられます。
興奮期:痙攣が起こり死亡
麻痺期:痙攣期に生存した個体もやがて全身麻痺で死亡
ヒトではウイルスの感染を受けると、潜伏期、前駆期、急性神経症状期、昏睡期と続きます。発症した場合は100%死亡します。
繰り返しになりますが、潜伏期(症状が出てないうち)に適切な治療を受ければ、ほとんどの例で回復しますが、100%助かるわけではありません。治療を受けても死亡することもあります。
症状が出てからあわてて医療機関に駆け込んでも、もはや手遅れであり死を待つしかありません。
私たちが仕事や旅行で狂犬病の常在国へ訪問する場合、それなりの準備が必要です。
具体的には、
1.渡航前に狂犬病ウイルスに対する基礎免疫をつける。日本式とWHO式がありますが、日本方式では0日、30日、210日の3回、人用組織培養狂犬病ワクチンを接種します。これを狂犬病暴露前免疫といいます。
その後、現地の犬や野生動物に咬まれなければ問題ありません。
もし、現地の犬や野生動物に咬まれてしまったら狂犬病暴露後発症予防を行う必要があります。
狂犬病感染疑いの動物に咬まれた場合、まず傷口を流水と石鹸で徹底的に洗浄します。そのあと消毒用アルコール(絶句するほどしみます)かポピドンヨード液(こっちのほうがしみません)で消毒します。ただちに現地の病院へ行き動物に咬まれたことを申告してください。
2.狂犬病暴露後発病予防(タイ赤十字法とエッセン法があります):傷口に抗狂犬病免疫グロブリンを注射します。免疫グロブリン製剤は狂犬病ウイルスと直接結合してウイルスを失活させます。同時に狂犬病ワクチンを接種します(0日)。その後3,7,14,30,90日の合計6回狂犬病ワクチンを接種します。
人間の場合、犬と比べて発症するまでの期間が長いため、咬まれてすぐ免疫グロブリンで可能な限り狂犬病ウイルスの活性をさげ、その後はワクチン接種によって被害者本人の免疫力を高め、狂犬病を発症させないというやり方です。
狂犬病常在地では加害者の動物(咬んだ動物)の対処法は以下のようになっているようです。
1.飼い主がわかっていて、動物が健康であり、狂犬病予防注射をしている場合:動物を拘束(繋留)して様子を見るだけでよい。
2.飼い主がわかっていても狂犬病予防接種をしていない場合:動物をただちに安楽死させて病理解剖し、狂犬病でないか調べる。
3.飼い主がいない場合:ただちに捕獲し安楽死、病理解剖を行う
つまり、狂犬病が存在している国では、狂犬病予防接種をしてない犬は、飼い主の有無、飼い主の好む好まざるにかかわらず、殺処分されて病理検査にまわされてしまうようです。
日本で万が一、犬の咬傷からヒトが狂犬病で死亡する事件が起こり、その犬が狂犬病注射未接種だった場合、果たして事件の当事者同士で話が済むのでしょうか?
日本の国民性を考えると、狂犬病予防接種をきちんと受けている犬ばかりでなく、犬の飼い主まで悪者扱いされるような気がします。すべての犬=狂犬病をばらまく悪い奴という風評となり、安易な飼い犬の投棄や殺処分の増加につながりはしないかと非常に危惧しています。
以上のことを考える(日本人の国民性、清浄国を保つ)と、現在の犬の狂犬病ワクチン接種の義務は必要と思います。
繰り返しになりますが、日本国内に狂犬病が侵入してから対処していては駄目なのです。重要なのは、今現在の狂犬病清浄国を維持していくことが非常に大切なのです。
ただし、ワクチン自体が問題となるケースもあるので次回はそのあたりに触れてみます。
ちなみに、今回の情報源は
高山 直秀著 ヒトの狂犬病 忘れられた死の病 時空出版
から引用させてもらっています。
Posted at 09時45分